法律マメ知識

交通事故シリーズ 他人が起こした交通事故の責任(第5回)―従業員の無断私用中の事故

弁護士 中野 直樹

 A会社の従業員Bは、日常業務でA社の自動車を運転しています。Bは勤務終了後に、車を会社の敷地内に駐車し、鍵をA社の事務所の所定の保管場所に戻していました。ある休日、Bは会社に無断で鍵を持ち出してこの車を私用で運転したときに事故を起こしました。A社は「無断私用」を理由に責任を免れることができますか。

 会社の休日に、業務とはまったく無関係であり、しかも無断使用を禁止しているのですから、A社とすると責任がないと言いたくなります。しかし、裁判例は、正規従業員であるBが日常的な業務でこの車を使用していること、日頃、鍵の持ち出しや車の使用はBの判断にまかされていたこと等の事情があると、A社には、事故の相手方に対する運行供用者責任があるとしています。事故の相手方の保護が重視されています。これに対し、仮にBの友人が無断私用であることを承知しながら車に同乗しており、事故により怪我をした場合、裁判例は、Bの友人との関係ではA社に責任がないとします。Bの友人は、無断を承知しながら、むしろ無断私用に加担して同乗したと評価され、保護に値しないとされたのです。

 このように法律解釈には、事案の実態から、当事者ごとに法的保護に値するかどうかという実質判断が左右するところがあり、弁護士の力量が問われるところです。

2018/02/15
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