法律マメ知識

私の相続事件簿(全10回) 第7回 遺産の範囲―生命保険

弁護士 中野 直樹

「母が自殺しました・・」

 「先生に相談したい」、ドキッとする電話でした。依頼者だった女性の息子さんからでした。もともとこの女性は私が代理人として相手関係となっていたのですが、その事件が解決した後、気に入られて何かと相談にのったり、困った方の紹介を受けたりする交流が続いていました。この女性が、後のことは中野弁護士に相談をすること、という遺書を残して命を絶ったというのです。

遺していた多額の生命保険契約

 ご自宅に伺い、仏壇に焼香させていただいとあと事情を伺いました。ラブホテルの経営で財をなしたが、バブル期に不動産投資をしてやがて破綻、人にも騙されて1億円以上の負債を残していました。他方、一人息子のことを思ってのことでしょう、いくつもの生命保険に入っていました。生命保険がある場合には、証書の検討とともに、約款を読みこまなければなりません。被保険者は誰か、受取人は誰か、自殺の場合の取扱いがポイントです。

方針は相続放棄

 生命保険の被保険者は母、受取人は息子さんに指定されていました。契約後一定期間が経過し、自殺欠格条項にも触れず、数千万円の死亡保険金が支払われることがわかりました。他方母の債務は1億円以上。ここで知識が必要なことは、生命保険のうちの死亡保険金は受取人が指定されていれば、契約の効力でその受取人に帰属し、母の遺産ではないことです。方針は決まりました。息子さんは死亡保険金を受領して、母の負債については相続放棄により免れる。このように割り切って、債権者の請求を退けて、母の命の代償となった大切な保険金を一人になった息子さんの人生に役立てることができました。

生命保険金が「遺産」となるとき

 受取人が指定されているときには「遺産」ではありませんので、法定相続人が複数いる場合でも、遺産分割の対象とはなりません。
 しかし、生命保険契約に基づくものであっても、たとえば、入院を経て死亡した場合の入院給付金であるとか、すでに満期になっている場合の払戻金とかは受取人のものではなく、遺産となります。また指定されていた受取人が被保険者よりも先に死亡してしまい新たな受取人の指定がない場合には死亡保険金は、約款で特別に指定していない限り、遺産となり、法定相続人全員で分け合うことになります。
 相続税の取扱を含め、生命保険は、特別扱いとなっていることに留意してください。

2013/12/17
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