所員雑感

所員雑感 Vol.39 民事事件の裁判の終わり方

弁護士 畠山 幸恵

 裁判の終わり方、ときいて、皆さんは何をイメージしますか?

 まず思いつくのが「判決」だと思います。刑事ドラマでも、裁判官が判決を言い渡すシーンがありますよね。これはけっこうイメージしやすいのではないかと思います。

 刑事事件では、被告人に対して判決の言渡しをします。そのため、テレビでよく見る、被告人と弁護人、検察官、そして傍聴人(これはいない場合もありますが)がいる中での判決です。

 民事事件でも、当然、判決で訴訟が終了することがあります。しかし、民事事件の場合、必ずしも当事者がいる中で言渡しが行われるわけではありません。法律上も、判決言渡しに当事者の立ち会いは必須とされていませんし、当事者がいない中で言渡しをする場合のほうが多いのです。これは、控訴期間が判決の言渡しからではなく判決書を受け取ったときから始まることと関係しています。判決の言渡しに立ち会って、そのまま判決を受け取ってしまうと、すぐに控訴期間の計算が始まります。しかし、判決書を郵送で送ってもらうと、数日間は控訴期間の開始を遅らせることができます。控訴するかどうかの熟慮には1日でも多い方がいいと考えることが多いので、多くの場合、判決言い渡しには行かないのです。裁判官は、誰もいない法廷に向かって、一人で判決の言渡しをしているのです(本当に誰もいない空間に向かって読み上げています。)。テレビの判決をイメージしていると、なかなか不思議な光景だと思います。ちなみに、私たち弁護士は、判決日に裁判所に電話をして、判決の主文だけを教えてもらっています。

 

 判決以外にも裁判の終わり方がいくつかあります。

 まずは、和解です。民事事件では、訴訟になっていても、判決で終わるのではなく、和解で終わるものが多くあります。和解は内容がフレキシブルなので、双方の言い分の真ん中をとった解決というものだけではなく、事件によっては判決よりも的確な終わり方をすることができる場合があります。和解は、訴訟のどの段階でもすることができます。

 

 次に、訴えの取下げです。「裁判をしようと思って訴えてみたけど、やっぱりやめることにする」ということです。といっても、訴えられて裁判に応じていた方としては、突然「やっぱやーめた」と言われたらたまったものではありません。そこで、訴えの取下げには、相手方が本案について準備書面を提出し、弁論準備手続において申述をし、又は口頭弁論をした後にあっては、相手方の同意を得なければ取下げの効力がないと定められています。訴えを取下げると、はじめから裁判をしていなかったのと同じ効果となります。どういうことかというと、たとえば、訴訟(訴え)の提起は時効の中断事由とされていますが、時効中断もなかったことになるということです。

 

 そのほかにも、請求の認諾(相手の言い分を認めるということ)や、請求の放棄などによっても、訴訟が終了することになります。

 

 このように、民事事件の裁判の終わり方にはいくつものバリエーションがあって、必ずしも「(木槌で)カンカン!判決を言い渡す!」という判決だけではないのです(ちなみに、日本の裁判では、どの場面でも木槌をつかうことはありません。)。

2016/09/15
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